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日本交通の組織変革から学ぶ 〜評価制度から働く意味をデザインすること〜

8月号 のハーバード・ビジネス・レビューのテーマは「営業のモチベーション」
個人的にはピンポイントのテーマでした。


高付加価値のサービス提供をするためには、従業員のモチベーション管理はかかせない。

これは、営業という職種に限りません。

「どのように組織の中に働く意味をデザインしていくのか」

という問いは、マネジメントする立場にある人にとって永遠の課題だと思います。






=================目次=======================
特集記事のみです↓
  • 営業を本気にさせる報酬制度とは
  • 電通の営業はチームでモチベーションを上げる
  • 誰が本当に優れた営業なのか
  • 報酬制度は事業の成長に応じて変える
  • インセンティブがすべてではない
===========================================

P58に、日本交通のタクシーはなぜ「選ばれる」ようになったのか
をテーマにタクシー運転手のモチベーション向上についての特集があります。

勉強不足で知らなかったのですが、日本交通の一時期は負債1900億もあったそうです。

「重要なことよりも、結果が出ることをやれ」 日本交通・三代目社長が、1900億円返済の過程で得た経営哲学とは?

http://logmi.jp/23351

タクシー王子、東京を往く。 日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」 (文春e-book) [Kindle版]






ハーバード・ビジネス・レビューのタクシー運転手のモチベーション向上のために取り組まれた、下記3つの仕組みが紹介されています。

  • マニュアルの制定と運用
  • 三段階のキャリアパスを整備
  • 営業所のランキング制度を実施



今回は三段階のキャリアパスを整備にフォーカスして、「心理的モチベーション向上」について考えてみたいと思います。



能動的、自発的に仕事をしない人のモチベーションコントロール


タクシー乗務員になったきっかけを、社長の川鍋さんはアンケート調査をしたそうです。
結果・・・・

圧倒的な一位が「ほかに適当な仕事がなかったから」。

二位が「知り合いがいたから」・・・・・・・


タクシー運転手のみなさんは、能動的に仕事を選択しているというケースが圧倒的に少ない。

働く意味を真剣に考えている人、明確な理由をもってその仕事を選択している人・・・
は全体の1割にも満たないんだろうなと思います。
その中でもタクシー運転手は、主体的に選んでいる人が少ないという現実。


タクシー運転手のモチベーションをどのように向上させるのか?


動機付けが明確にないタクシー運転手という職業に従事する人に、プロフェッショナル意識をもって働いてもらうために何ができるか?

「選ばれたドライバー」としての誇りを持って 乗務しているという意識をもってもらうために仕組みづくりがはじまったそうです。


プロフェッショナルとして誇りを持とう!といくら掲げても、その成果が評価される仕組みがなければモチベーションは上がらない。


そこで、日本交通は、心理的モチベーションを上げるためのキャリアパス設計を実施します。

有名な黒タクの導入です。

黒タクとは、それまで一般的であった車体が黄色のタクシーに比べ、乗り心地や快適性、接客サービスを充実させた黒塗りタクシーの通称。




http://www.nihon-kotsu.co.jp/taxi/feature/kurotaku.html


日本交通における乗務員のキャリアパス






組織理念・戦略と連動した評価制度


営業のモチベーションコントロールでも、○○○賞だったり、一般的なインセンティブだったりと、様々な制度があります。

大切なのは、コンセプト、戦略と評価制度が連動しているかということだと思います。

下記のような流れでキャリアパス設計をしています。

  1. 「選ばれるタクシー」というコンセプトを生成
  2. 高付加価値サービスを戦略として動かす
  3. サービスと連動して高付加価値人材が必要になる。※高付加価値の独自サービスを提供する=プロフェッショナルとしての意識を醸成する
  4. 金銭的なインセンティブではなく、プロフェッショナルなキャリアをつくっていくための評価制度を設計する。

日本交通のコンセプト

拾われるタクシーから選ばれるタクシーへ。

「選ばれるタクシー」というコンセプトをもとにして、顧客に拾われるのを待つ受け身の体制を改善し、日本交通を指名して選んでもらうための戦略を実行しています。

日本交通の戦略 高付加価値の独自サービス

・キッズタクシー
・東京観光タクシー
・サポートタクシー
・陣痛タクシー

「選ばれるタクシー」になるために、様々な施策を実行しています。


参考記事

「陣痛タクシー」「キッズタクシー」、これは利用してみたい!!!
http://matome.naver.jp/odai/2134154160477692301


どのサービスも、運転手は、高度なコミュニケーション能力、特別なニーズに対応するための判断力が求められるサービスです。



  1. 「選ばれるタクシー」というコンセプトを生成
  2. 高付加価値サービスを戦略として動かす
  3. サービスと連動して高付加価値人材が必要になる。※高付加価値の独自サービスを提供する=プロフェッショナルとしての意識を醸成する
  4. 金銭的なインセンティブではなく、プロフェッショナルなキャリアをつくっていくための評価制度を設計する。
  5. サービスレベルの向上→選ばれるタクシーへ
  6. プロフェッショナル人材は評価され、さらにモチベーション向上



このストーリーがあるために、机上の空論だけでは終わらずに、組織にキャリアパスが浸透し、人材が育ち、組織の競争力につながっているのだと思います。



モニタリングチェックを導入


乗務員のキャリアパス設計を機能させるための鍵となっているのが、営業所のランキング制度とモニタリングチェックです。



http://www.nihon-kotsu.co.jp/taxi/feature/education.html

ランキングを左右するのが、全車両を対象に覆面モニターがランダムに実施する「モニタリングチェック」である。「乗車時に会社名と氏名を名乗ったか」「降車時、忘れ物の声かけと同時に確認作業をしたか」など、マニュアルに規定された特定の一五項目を乗務員が正確に実行しているかについて、四ヶ月を一クールとし、年間三回の採点を行う。 
覆面モニターが直接その場で指摘するようにした。同時に、IT 化を進めることで、営業所のPCから結果を即座に確認できるシステムも導入している。    


日本交通スタンダードマニュアル80という、マニュアルも浸透に向けて動きがあるのですが、マニュアルの浸透も、モニタリングチェックによって実施されます。
※最初は覆面だったそうですが、今は違うそうです。


営業職で、ロープレ、上長同行からフィードバック、一人で営業に行かせても問題ないかのチェックをしていくプロセスと同様ですね。


仕組み構築で終わらずに、業務改善につながっているかを組織的にチェックする体制を整える、誰がそれをやるのか?といったところまで落とし込むということが非常に大切になってきます。


モニタリング=個人のスキルを高めるためのフィードバックをする。
評価制度は現場でのフィードバックと連動しないと機能はしません。

評価制度や人材定義をした後には、フィードバックの仕組みも同時に組み込む、ルーティーンに落とし込むということは徹底して実施しないとだめですね。


個人の野心や志に頼らず、組織として個人の働きがいをデザインするという視点は持ち続けたいなと思います。

まとめ


キャリアパスの設計、インセンティブの設計は組織の文化に大きく影響します。
人材のモチベーションが低い、志がない、スキルが足りない・・・とたくさん言い訳をしたくなることはありますが、「働く意味」を見つけやすい組織環境をデザインすることをサボってはいけないなと思っています。

インセンティブは3つに分類できる。

①金銭的インセンティブ
②学習インセンティブ
③人間関係インセンティブ

組織の中でバランスよくインセンティブを設計することが大切だと思います。


さらに参考記事


負債1900億円、孤立無援の御曹司がリストラ、タクシー乗務から戦略を知るまで

http://diamond.jp/articles/-/57025


タクシー運転手の日記 - Japanese Taxi Driver's Log -
http://cooldriver.blog.eonet.jp/taxi/2008/07/post-4c7a.html

タクシー運転手のリアルな声を知れて面白いです。

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