日本的経営の強さを磨く手段として
「学習優位の戦略をどのように機能させるか」が最近のテーマです。
ハーバードビジネスレビューでこのテーマの論文をみつけてから、いくつか関連の本を漁って調べています。
学習優位の戦略 著者:名和 高司 2003/03/01
名和さんの考え方が非常に参考になったため、そのまま「学習優位の経営〜日本企業はなぜ内部から変われるのか〜」を購入して読んでみました。
学習優位の戦略とは?
戦略が固まりきっていなくても、「学習を通じて戦略を骨太にしていく」というプロセスを意図的につくることができれば競争優位性を築けるという考え方です。
経営トップと現場レベルが対話を積み重ねながら戦略を修正、構築していく「創発戦略」の考え方にも近いと感じています。
当たり前ですが、戦略は大切です。
3C分析、SWOTなどフレームワークを活用して、どのような方向性で戦っていくかを考えるの必要性はこれからも変わらないはずです。
しかし、「自社の強み・弱みを分析して、競合の強み・弱みを分析して、市場のニーズを分析してセグメンテーションする・・・」という従来の戦略のアプローチが、環境の不確実性の増加に伴い、通用しなくなってきている。
不確実性が高い事業環境の下では、線形的な戦略は役に立たない。
当初の事業計画は、環境の変化に合わせて、柔軟に変更する必要がある。
精密な戦略をつくり上げる力ではなく、仮説・実践・検証のサイクルのなかから組織的な学習を積み上げていく力こそが、持続的な優位性の源泉となるはずだ。
だからこそ、現場レベルでの学習が積み重なり、自然発生的に戦略が生まれてくる(もしくは強固なものとなる)というサイクルをまわしていくことが大切になってくる。
この考え方に共感です。
つまり、持続的な優位性を築いていくためには、「現場が学習する仕組み」をつくるということがポイントになってくるということだと解釈しました。
創発戦略は、もともと日本の経営が得意としてきたことだと思います。
スマート・リーンとメビウス運動 2つのフレームワーク
この本で抑えておきたいフレームワークは2つ。
①スマート×リーンの事業モデル
参考
http://sp-bigin.doorblog.jp/archives/23259248.html
②<4> BOXの結び方=メビウス運動
スマート・リーンのポジションを築いていくために、組織は「学習」と「脱学習」を繰り返す必要がある。
現場、顧客から学習し、その学習・洞察したことを、戦略や価値観と連動させていくという考え方をメビウス(無限みたいな形)に喩えてフレームワーク化されています。
参考
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1009/28/news071_4.html
この2つのフレームワークを抑えたところで、さらに「学習優位の組織」を築いていくために、どのような仕事へ落とし込むことができるかをまとめてみました。
学習優位の経営を実践するために実行する3つのこと
- 仮説・実践・検証の動的プロセスを体質化する
- 戦略ポートフォリオを組み直し、学習要素を常に見直す
- 本業の強みと新しい知恵をうまく融合させる仕組みをつくる
一つずつ具体的なアクション案をもとに説明していきます。
※この3つはかなり自己解釈が入っています。
①仮説・実践・検証の動的プロセスを体質化する
現場で仮説・実践・検証のプロセスが自然に生まれる仕組みを構築することがポイントとなる。
(例)
・失敗を明確にレポーティングする
5Whyの導入
何か失敗が起こったとき、計画と結果がズレたときに、どのような場をつくり、失敗から学んだ知識をどのように蓄積して組織の強さに変えていくのか。
まさにトヨタ自動車が得意としていることですね。
トヨタはこの仮説・実践・検証プロセスを始める際に、現場の「見える化」(可視化)を徹底している。現場で何が起こっているかを正確に把握することによって、問題の本質は何かを考え抜き、アクションを起こす。
トヨタのカンバンやアンドンといった考え方は、その方法論が特徴的なのではなく、根本にある仮説・実践・検証プロセスを明確にまわしていることがポイントとしてあるのだと思います。
カンバンの考え方を知的ワークに組み込む考え方が増えているようで、ここらへんはもう少し掘り下げてみようと思います。
参考リンク
http://www.shmula.com/kanban-for-creative-knowledge-work-interview-with-david-j-anderson/14755/
仮説・実践・検証のサイクルは、考え方の共有だけでは、なかなか定着しないと思うので、仕組み化、ツール化までもっていけると良いですね!
②戦略ポートフォリオを組み直し、学習要素を常に見直す
戦略の見直しが行われなければ、組織で学習する質も量もなかなか変わりません。
学習の要素に変化を加えるためには、ポートフォリオ・オブ・イニシアティブの考え方(POI)を取り入れると、新しい知恵をどのように戦術に入れ込み進化させていくかが見えてくるのではと考えています。
ポートフォリオ・オブ・イニシアティブの考え方(POI)
・参考サイト
ポートフォリオの再構築
http://www.bbt757.com/servlet/content/6028.html
上記サイトからの引用
横軸:収益化のタイミング(事業特性によって幅は異なるので括弧内は一例)
・短期:1年以内
・中期:2~3年
・長期:5年~
縦軸:イニシアティブへのfamiliarity(親和性)
・Familiar:事業として詳しい分野で期待値が収斂する(例、既存顧客への既存事業=コア事業)
・Unfamiliar:詳しくないが期待値は一定の幅でコントロールできる(例、コア事業からの滲み出し or 既存顧客への新規事業展開)
・Uncertain:定義ができずどれだけ振れ幅があるかも分からない(例、新規客への新規事業展開)
ZIBA濱口さんが提唱している、不確実性のマッピングとも共通している部分があります。
イノベーションにともなう7つの落とし穴
不確実性への対処を現場レベルで考えるということができれば
戦略を鵜呑みにして組織学習が機能しないというリスクは抑えることができるのではないかと思っています。
③本業の強みと新しい知恵をうまく融合させる仕組みをつくる
自社の強みを軸に、自社のDNAをいかに組み替えていくことができるか
まずは自社の顧客からはじめる!
ここを徹底する必要があります。
自社が築き上げてきた顧客との接点こそが、顧客価値を深堀りする上での最大の資産となるはずです。
学習優位の経営の中で紹介されている「メビウス運動」のフレームワークはここで活きてくるのではないかと思います。
顧客リストの精査だけではなく、自社のDNAや顧客洞察といった視点も組み合わせて分析をすることで、真の戦略が見えてくる。
・実行アクション例
3C分析を月次で実施する。
自社・顧客・競合の関係性を現場レベルの人間も巻き込みながら話し合い、戦略・戦術を再構築していくということが必要。
最初の方に、
「3C分析やSWOT分析では形式的な戦略しか見えてこない」
と書いてしまいましたが・・
定期的に戦略を現場レベルで見直すためには必需品だと思っています。
大切なのは、ツールやフレームワークに捉われないことですね。
Newpicsより 3C分析について
newspicksの大前研一さんのコラムで面白いテーマとコメントがあったので紹介しておきます。このコメントから学べるのはnewpicksの魅力ですね。
「再定義される「3C」、新分野に進出するIT企業」
このテーマに対して書かれているコメント
・mixi前社長 朝倉さん
"従来の「戦略フレームワーク」が機能しなくなっている"事と、自社の定義について考える努力を放棄する事とは雲泥の差があります。
昔、自分達の3Cを再定義しようと話したところ、「そんなものは本質ではない」と言い放った人がいて驚愕したことがあります。「本質ではない」のではなく、単に怠惰なだけです。
事業が多様化したり、事業環境が凄い勢いで変化し、高度に複雑化して自分達が何をやっているのか見えづらくなっている時こそ、立ち戻って「自分達が何屋」なのかを考えるべきだと思います。僕はそこから始めました。
アブラハム グループ創業者 高岡さん
勝てる戦略を考える時、3Cはどの順番から定義するのかが一番重要。まずはCustomer顧客からがよくて、Company会社から考えるとダメ。
たとえば、アブラハムの場合はCustomer=富裕層 と定義。そこをずらさず、顧客の変化に応じて、アブラハムの業態が変化していった。今では他の金融機関を自分のバリューチェーンに組み込み、サービスを提供している。
逆に一般的な金融機関は自社Company を固定して、そこから客層を広げようしがちなため、誰からも自分に相応しい会社と思ってもらえず、客に選ばれず、追いかけまわしてばかりで、リソースを投下したわりに低収益となる。
戦略を考えない、戦略を構築するための分析や調査をしないことは、朝倉さんが書かれているように、ただの怠惰です。
やり方からブラッシュアップし、常に3Cの要素(顧客・自社・競合)に目を向け続けることは、組織が良い学習をしていくために必須の要素だと思います。
まとめ
イノベーション=革新的な戦略とイメージすることが多いですが、
組織体質の見直し、マネジメントのやり方、もう一度本業や顧客に目を向けるということが必要になってくるということを再確認することができました。
よくある失敗
=
戦略→戦術→実行が一方通行で、トップ層が上流部を考えて、現場にはやれ!と指示出し、1年後に結果だけで判断・・・
この流れでは、不確実性が高くなっている今の環境では通用しない。
学習する組織を構築するためには
戦略⇄戦術⇄実行
常に戦略や戦術、そこに紐づく人員と予算が組み直されている、進化しているという状態をつくれるこ
そして、このマネジメントスタイルこそが日本的経営の強さ(日本人が得意とするスタイル)だと再認識したいです。
スケッチノート※A3ノートを買ってみました。
さて、現場で活かすために・・・
知識社会の中で「カンバン」の考え方がどのように活用していけるかは、どこかでまとめてみようと思います。